この青森行きは先週末だったんだけど、帰宅してみたらなんと家のインターネット回線が止まっていて、その修理が終わったのが昨日。それゆえ書けずにいました。
青森に行く事にした。一番の目的地は弘前市だったんだけど、せっかくなので青森市を経由していく事にして、11日のAM7:00に家を出る。高速を使えばこんなに早く出なくていいんだけど、どうせ時間はあるのだから景色を楽しみながら下道で行く事にしたのだ。
まずは走り慣れた国道282号線で八幡平の北側をかすめて秋田県の鹿角市へ。晴れたり曇ったりを繰り返す天候で、標高が高いところでは降っているのはみぞれだった。
青森は予報で雪だったので出発前にスタッドレスに交換した。まあこの時期の雪だから降っても積もる事はないだろうとタカを括っていたんだけど、その予想は裏切られる事になる。
この交差点は右に折れて平川方面へ。
このまま282号を進んで弘前に一度出てから青森に行くのが最短みたいなんだけど、十和田方面に寄り道する事に。
この後、国道103号線に進み田沢湖を目指す。
田沢湖。まわりのブナの原生林もすっかり葉を落としていて、少し物悲しい景色だった。水も冷たそうだったな。
この辺りで警察のミニパトが赤橙を点けながら徐行して進んでいて、何してんだろと近付いてみたら、クマが出るので気をつけて下さい、とスピーカーで注意を促していた。シーズンオフとは言え観光地だから人もクルマもそれなりにいるのに、こんな場所でも遭遇の可能性があるのか。
そして奥入瀬渓流へ。何年前だっけ、ここ家族で来たんだよな。まだ良かった頃に。
しばしひとりで物思いに耽る。自然は変わらないから、あの頃から変わったのは自分とそれを取り巻く環境だね。それが良かったのか悪かったのかは分からないけど、避けられない事だったとは思う。当然ベストな進路ではなかったけど、あの家族に関わっていた人にとっての最大公約数的な解決ではあったとも思う。
それでもまだ心は少しざわざわするね。
人が多くなってきたので出発する。
このまま103号線を進むが、道はどんどん険しくなってくる。今回は来年のバイク旅の偵察を兼ねているので覚えておく事にする。ここまではともかく、これからの道はハーレーではキツい。SRだとちょうどいいかな、来年の青森ツーリングはSRで来よう。
道路の脇に雪が見えてきたなと思っていたらそのうちに路面は完全な圧雪になった。今シーズン初めての雪道走行だ。
結構滑る雪で、雪面の上に厚い水の膜が張ってある。観光に来たのだろう関東ナンバーのクルマが何台も路肩に落ちている。中には立木に激突して大破しているクルマもあって、そういやこのクルマのスタッドレスも6年目なんだよなあと思い出し慎重に進む。今出来のスタッドレスは4年は裕に持つけれど、6年というのはなかなかの冒険だ。
まあ履いてみてあまりに滑るようなら交換すればいいかな。
駐車スペースを見つけて一服休憩。完全に冬の景色だ。この時点で昼の12時。地図を見ると青森市まで1時間かからないくらいなので予定通り青森市で昼飯だな。路面からは雪が消えた。
しかしやはり旅はいい。住んでいる街でのいざこざやしがらみが心の中から薄れていくのがはっきりと分かる。そういう心情の変化を感じられるのはクルマでの旅だからかな、バイクだとこういう細かい心の変化には気付きづらい。
青森市内に入り、目的地の途中で見つけた旨そうな定食屋に入る。焼き魚定食860円。味も美味しかったが店員のおばちゃん達のガラガラした雰囲気に驚いた。それは恐らく地域柄のもので、県境を跨ぐだけでこんなにも違うものなんだな。
これは前々からの計画なんだけど、来年はバイクで青森を楽しもうと思っている。走行距離は無理せずに、土地の雰囲気を感じる旅に出来たらいいな。
さて。
青森市での目的地は県立美術館。弘前市出身の世界的アーティスト、奈良美智さんの個展が開かれていたのだ。
奈良さんはその道ではビッグネームなのだけど、例えばロックミュージシャンのレコードやCDのジャケットを描いていたりして僕みたいな人間にも親和性が高い。
これはこの日の夜に理由を知る事になるんだけど、出身の弘前の街には常設の記念館的なものはないんだよね。事前に調べてその事を知り、また県立美術館で個展を開くのも10年ぶりだという事を知ったら見に行かない訳にいかないよね。
奈良さん、僕も毎週楽しみにしているTwitterで連載している漫画「地元最高!」のファンらしく。奈良さんは○ちゃん推しかあ、自分はこはるさん推しです。モモカもクールでいいなあ。
そんなに頻繁に美術館なんかに行くような人間でもないんだけど、絵画というものは、音楽や映画、小説なんかと違って向こうからはアプローチしてこない。こちらの心の窓を開かないと身体に入ってこないのだ。そんな慣れない作業を1時間くらいしたかな、とっても静かで豊かな1時間だった。
たまにこういう時間も必要だね。
ここから一番の目的地の弘前に向かう。
今回の旅のメインの目的は、弘前で開かれる大好きなミュージシャンのバンドでのライブを観る事だった。
誘ってくれた弘前在住のともだちとホテルで落ち合い、会場まで案内してもらう。日が落ちた弘前の街の気温は2度。流石に寒いな、ダウン着てきて良かった。
このバンドの事は僕が20歳くらいの頃から聴いているけど、本当に心からいいなって思うようになったのは40歳を過ぎてからだった。若い頃に本当の良さが分からなかったのは仕方ないと思う。生きることの心の機微を深いところで捉えた歌詞は、ウェイウェイ言ってる若者には分からないよねそりゃ。
しかし、10代の頃からこのバンドを続けているミュージシャン氏はどうなのだ。氏の作風はデビューの頃からさして変わっていないし、その40年の長いキャリアの初期と後期の曲を並べても何ら違和感がないのだ。
一体、この方はどんな人生を歩んできたのか。また、それを作品にするためにどれだけ真摯にそんな人生と向き合ってきたのか。想像を絶する、とはまさにこの事だと思う。
定刻通りにスタートしたライブの一曲目は「Winter Sun」だった。僕の大好きな曲。一回目のリフレインを聴いていると、激しく胸に込み上げてくるものがあった。ライブを観ていてこんな気持ちになった事は53年の人生で一度もない。
その感情のうねりはさらに加速して、気付いたら頬が濡れていた。人前なのにね、自分やめろよって思うんだけど涙は止まらない。それどころか嗚咽を堪えるのに必死だった。
人並みの欲望から 人並みの人生から
君の心の扉を開けて 君の心の窓を開けて
明日になれば気付くだろう 明日になれば気付くだろう
僕らは 僕らはきっと生まれ変わる
Winter Sun 作詞作曲 山口洋
この方のヴォーカルは魂の振動が直接空気を揺らし、それにメロディを付けたような体で歌われ、そのバイブレーションやフロウが更に直接聴いている者の胸を打つ。それこそ唯一無二だし、その強さは他で経験したことのない類のものだ。
歌唱力、みたいな話をすれば色々言う人がいるのも知っているし、本人もコンプレックスだった時期があったようだけど、聞き始めて30年以上、僕は氏のヴォーカルが良くないと思った事は1ミリも、ただの一度もない。味がある、とかそう言うレベルじゃない、聴いているこちらの魂も共振させる不思議な力を持っているのだ。
バンドサウンドとしても恐らくトップレベル、シンプルかつソリッドでしかもタイト。気を抜くと意識を宇宙にまで飛ばされそうな音だ。
そんな圧倒的なサウンドに翻弄されながらの、あっという間の2時間だった。
ライブの後、誘ってくれたともだちと一杯やってこの日はお開き。ホテルに帰って眠る。
翌12日はともだちに弘前の街を案内してもらう。僕は前もって弘前公園を見たいと伝えていたのだけど、その前に是非行こう、と言うことでまずは岩木山神社に行く。
なんだろう、格式があると言ったらあれだけど、雰囲気だけでただの神社じゃない事はすぐに分かった。弘前市民の心の拠り所の岩木山のふもとに建てられた神社だ、きっと数え切れないくらいたくさんの人の願い事を聞いてきたのだろう。作りは決して華美ではないけれど、人々の暮らしと共に何100年も存在してきた事がそのまま佇まいに表れている。
冷たい雨が降る中、とてもいい気分でお参りをしたら、何故か普段ほとんど引かないおみくじを引きたくなった。運勢は末吉だったんだけど、そこに書いてある事が滅茶苦茶腑に落ちた。
曰く
運勢
すこしずつ運がひらけます。あせってはいけません。迷ったりして事をかまえると失敗します。時期を見なさい。落ちつくことです。
まさにここ一年の僕の事だ。流石に最近は自分でも気付いていて、今は重大な決断はしてはいけない時期だと薄々感じていたんだけど、そんな気持ちがそのまま書いてあった。尊かったからそのおみくじは財布に入れて持って帰ってきた。
とてもいい神社だったな。
その後弘前公園に移動。もう遅いだろうと思っていたけどまだ紅葉が残っていてとても綺麗だった。というか城址がこんなに広い公園のまま残っているのは東北では珍しいんじゃないか。
そんな公園をともだちと話をしながら歩いていると、ふっと何かが抜けるような感覚があった。なんか、このままでいいんじゃないのかなーって。
人生は厳しいし世の中は時に世知辛いけど、それでも中には分かってくれる人もいるし困った時に力になってくれる人もいる。それで十分なんじゃないかって。
少し休んで、体力を戻したらまた人間らしい行動を始めればいいじゃない。おみくじにも「あせってはいけません」って書いてあったでしょ?
そんな事が心をよぎった。家の部屋の中にいては絶対に感じなかっただろう事だ。
今回の旅も良かった。誘ってくれたともだちと最高のライブを演じてくれたミュージシャン達とハコのスタッフ達、色んなインスピレーションをくれた奈良さんの絵とそれを展示していた美術館のスタッフ、定食屋のガラガラした店員のおばちゃん達etcetc、この旅に関わってくれた全ての人に感謝だ。
公園の近くの蕎麦屋で昼飯を食べ、ともだちに別れを告げて家に戻る。
帰りは高速で2時間ちょっと。今年最後の旅になるかな、来年はどこへ行こう。