新潟へ

せっかくの三連休なんだけど天気予報はずっと雨。今日15日に至っては朝から警報級の大雨が降っている。午前中、昼食を摂りに外に出たのだけれど、停めたクルマから店の軒に入るまでにびしょびしょになってしまう降り方なので今日は外出を諦め家の中で出来ることをする事に。

先週末、新潟に住む友達を訪ねた事を書こうと思う。




本当は当然バイクで行くつもりだった。FXRにはディフェンダーバッグも付けたしETCも付いているし、久しぶりの泊まりのロングツーリングが本当に楽しみだったんだけど、先週も天候は荒れた。8日の土曜日は九州から北陸にかけて過去最大級の大雨の予報、目的地の新潟の予報も画像のとおり。
若い頃ならいざ知らず僕はもう初老のライダー。しかも乗って行こうとしているバイクはまだまだ慣れない大型バイクだ。状況を冷静に考えると身の危険の心配もあながち大袈裟ではないな、と。これは生きて帰ってこれない可能性もあるなという事で泣く泣くクルマで行く事に。仕方ないけど本当に残念だった。




ガソリンを満タンにしてトリップをゼロセットするのはいつもの旅の前の儀式。移動手段はクルマにしたとはいえ道中の天候はかなり荒れる予報だ。無事に帰ってこられる様気を引き締めて運転しよう。




AM8:00に出発したんだけど、その時点では盛岡市内はまだ降っていなかった。最寄りのインターから東北道に乗り南進する。




県境を超えて宮城県に入ったあたりで降り出した雨は国道286号の川崎町を通過する頃にはかなり強い降り方になっていた。国道ぞいのコンビニで初めての休憩。仕事柄なんだろう、3時間くらいは無休憩で走れるようになってしまった。同乗者がいたら気を遣わなければならないところだね。




コンビニの軒下でタバコを吸うが、風もあるから膝下は濡れまくり。こりゃ景色のいい場所で停まって映える写真などを撮れる状況じゃない。タバコを吸い終えたら早々に出発する。




山形県に入り快調に進む。飯豊町のあたりで腹が減り昼食を摂ることに。山形だし蕎麦が食べたいな、とGoogleマップで「蕎麦」と検索、特に選ばずに現在地から一番行きやすい店を選んで向かう。

店に入ると、ちょうど客の切れ目なのか店番のおばちゃんが暇そうにしていた。丁寧にメニューの説明をしてもらって選んだ冷たい肉そばを持ってきたおばちゃんは僕のクルマのナンバーを見たのか「ずいぶん遠くから来たんだね、どこまで行くの?」と話しかけてきた。新潟までです、友達を訪ねにと答えると、おばちゃんは僕の席の斜め向かいの椅子に座り出した。
どうやら暇な時間だから話し相手が欲しかった様子で、質問攻めに遭う。

おばちゃん「盛岡からここまで何時間くらいかかったの?」
僕「4時間かからないくらいですかねえ」
お「どうやってこの店に来たの?」
僕「(スマホを示しながら)あー、Googleマップって奴で調べたらこの店が出てきて」
お「あらありがとう。お歳はおいくつなの?髪は白髪だけど服装は若いし、60歳くらい?」
僕「こないだ53になりました、でも60歳に見られたのは初めてっすよ」
お「あらごめんなさい。ご家族は?」
僕「あーーー、実は去年離婚しまして」
お「まあ、そうなの!またどうしてそうなったの?」

— 遠慮など微塵もない根掘り葉掘りタイムに突入 —

お「それは大変だったわね、でも過去の事を考えても仕方ないからね」
僕「そうっすよね」
ここでおばちゃん、ニヤリと笑いながら小指を立てて聞いてきた。
「あなた、こっちの方はどうなのよ?」
あまりにベタな仕草と展開なので流石に僕も苦笑しながら
「あー、新潟って美人どころだから、ひとり可愛いの見つけて盛岡に連れて帰ろうと思ってました」
と軽口で答えたところでようやく蕎麦完食。
美味しかった?って聞かれたけど、正直そばの味を味わっている暇は一瞬もなかった。

言っておくがここはスナックじゃなくて蕎麦屋だし、時間も真っ昼間だ。おばちゃんって最強だなあと感心しながらも、名前も知らない他人に自分の事情を話した事で気持ちが軽くなったのもはっきりと感じられ、これはこれで得難い時間だったし旅はやはりある程度無計画の方が楽しいんだなと再認識。
いや、得難い、というか、かなりストレンジな体験だったな。あの店は異界だったのか魔窟だったのか。いずれにしろ旅ってやっぱり面白い。




気を取り直して運転を再開する。雨はワイパーが追いつかない程の土砂降りになった。バイクで来なくて本当に良かった。一瞬の気の緩み、一瞬の判断ミスで事故に繋がる乗り物だ、もしバイクで来ていたら大袈裟な話じゃなく無事に帰れなかったかも知れない。
実際ツーリング中と思しきバイクとは一度もすれ違わなかった。




写真もこんなものしか撮れない。道の駅の喫煙所に行くまででもびしょ濡れになるくらいの降り方。もしタバコを吸わない人間だったらきっとずっとクルマの中から出なかったと思う。




そんなこんなでちょうど14時頃に新潟市に無事到着。事前に教えてもらっていた住所をGoogleマップに入力し、友人K宅の玄関前までナビしてもらう。
当たり前に使っている機能だけど、冷静に考えるとすごい事だよね。自宅から400km離れた友達の家の玄関に迷う事なく辿り着けるんだよ?良くも悪くも便利過ぎる。スマホなしでの生活はもう出来ないんだろうなって考えると少し怖くもある。


出迎えてくれた、約2年ぶりに会う友人Kは相変わらずで元気そうだった。大学の寮で知り合った友達で、卒業してからも関係は細く長く続いている。そう考えると30年以上の付き合いなんだな。
Kは学生当時からずっと仲間内のボス的存在で、奴にしか出来ない生き方を貫いている男だ。定期的にLINEをくれるんだけど、5月くらいだったかな、最近どう?というKの問いに、少し人生に疲れ気味だよって返信したら会いに来たら?って話になり今回の旅が実現した。家に泊めてくれるそうなので土産がわりのスコッチを一本、盛岡から持って行った。




Kの細君は遠方にコンサートを観に行っていて不在だったので、挨拶もそこそこにKの家でビールで乾杯し、それから予約してくれていた店まで小雨の中を歩いて向かう。Kは俺がツマミを作るから家酒でもいいよって言っていたんだけど、僕がせっかく行くのだから新潟の街を少し見たいな、とリクエストしていたのだ。とんでもなく流量の多い信濃川に掛かる橋を渡り繁華街まで歩く。




久しぶりに歩く新潟の街は、慣れ親しんだ東北のそれとは雰囲気がだいぶ違っていた。繁華街の外れから入ったんだけど、外側は歳の若い経営者がアイディアやセンスを活かしてやっていると思しき小さな店が多くあった。きっと家賃がそこまで高くないんだろうね、古着屋や食器屋などの小商いを営んでいるのが見受けられた。
街の中心部の勢いがなくなりシャッターが閉まっている店が多いのは、例えば東北で経済的には独り勝ちだと言われている仙台ですらそうで、でもそこから一歩進んで勢いのある若者たちがそんな店舗を借りて街を再生している様子はなかなかいい眺めだった。

繁華街の中心部に、演劇が観られる劇場があったのにはびっくりした。こういう文化は街に底力がないと経済的に継承できないだろうなというのは何となく想像出来る。僕の住んでいる街では映画館すら減っていく一方だからね。




Kが予約してくれた店は、予約がなければ入れないくらいの人気店なんだそうだ。確かに酒もつまみも絶品で、刺身も太平洋岸の三陸では食べられない種類のものが並んでいた。ノドグロの炙り、旨かったなあ。


2時間その店で飲んで、その後はKの家に戻って僕が持ってきたスコッチを飲むことに。シャワーを借りて汗を流し、部屋着に着替えたら場の雰囲気は大学の寮そのもの。30年前にタイムスリップしていた。飲む酒はずいぶん上等になったけどね。

自然と普段は出来ないようなテンションの話になる。僕もKに甘えて、背負った重荷の中身を見てもらった。半分くらいだけどね。Kはそんな話を静かに聞いてくれた。そして最後に、そんなに自分を責めるようなものの見方をしなくていい、そしてもう少し笑う機会を増やした方がいい、とアドバイスをくれた。
そして、読むべき本を数冊、教えてくれた。奴は昔からそうなのだ。とにかく本を読ませようとする。自分で考えさせようとする。自分自身もそうやってきたのだろう、自分で考えて自分だけの生き方、歩き方を何十年と続けてきたミスター・アウトサイド。
Kは自分で選んだ道をしっかりと歩いているように僕には見える。僕もしっかりしなきゃだな。いいヴァイブスをたくさん頂きました。




翌日は小降りにはなったものの相変わらずの雨。来年も来いよと言ってくれたKに別れを告げ、日本海沿いの道を走って帰路に着く。新潟の街で、普段のウォーキングの時とは違う重たいブーツを履いて2時間くらい歩いたせいか股関節の辺りが筋肉痛だ。




笹川流れと呼ばれる山形県南部の海岸線は、晴れていれば風光明媚な気持ちのいい道路なんだけど、この日は厚い雲が空を覆っている生憎のコンディション。2年前にラビットを引き取りに新潟に行った帰りもここを走ったんだけどその時は暴風雨で、その日に比べればこの日はマシだったけどこれはいつか天気のいい日にリベンジしたい道だ。今年のお盆に泊まりで来ようかなあ。




太平洋岸とはまるで違う、波が静かな遠浅の海。学生時代、山形に住んでいた頃何度もバイクで来た場所だ。
本来夏場はとても穏やかな気候のはずなんだけどどうも当たりが悪いようで。




それでも風雨が幾らか弱まったので、クルマを停めて休憩しながら景色を眺める余裕もあった。
お盆休みにでもひとりでゆっくり来ようかな。民宿にでも泊まってさ。




鶴岡市まで北上し、そこから内陸に入ったところで昼飯時になった。昨日結構飲んだからか味の濃いものを食べたいぞ、ラーメン?違うな、ピザの気分だなって事でまたGoogleマップで調べるとしっかりしたピザを出してくれそうな店が通り道にある事が分かった。
せっかくなので前菜とスープも頼んだんだけど、スープの皿が大きい事に驚く。こんなもんなの?




石窯で焼いたピザは生地もチーズもとても美味しい本格派でした。運んできてくれた店員さんがやはり僕のクルマのナンバーを見て話しかけてきた。またか!と少し身を固くしたけど、流石に2言3言の挨拶程度の会話だけだった。まあ普通そうよね。




鶴岡市から最上川沿いの気持ちのいい道を東進し、国道13号に出たら旅はもう終盤だ。昨日から走りっぱなしで少し疲れたけど、秋田県の横手市からいつもの岩手県道1号に入り、17時過ぎに無事帰宅。
総走行距離は790km。なかなか走りごたえあったけどいい旅でした。バイクで行けなかったのは未だに悔やんでるけど、来年、今度は季節を選んでまた行こう。






一時期どっぷりハマった踊ろうマチルダはKから教えてもらったんだった。
こんな真っすぐな歌、歌いたいなあって思う。







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