ロバート・クワイン

今年の秋は例年より寒くなるのが早い気がする。晴れた日は相変わらずベスパで通勤しているのだけど、朝晩の冷え込みが半端ない。先日特に冷えた朝があって、その時などはグローブ無しじゃ辛い位だった(僕はベスパに乗る時は防寒目的以外ではグローブは着用しない)。
寒い日のバイクも気持ちいいっちゃあ気持ちいいんだけど、やはり乗る前に心構えが必要なのは少し憂鬱だ。今月半ばにあるSRのショップツーリングはブレスサーモ着用かなぁ。

来月、クラウンワゴンの車検なんだけど、今回はユーザーで通すことにした。前回の車検から1万kmくらいしか走ってないし、特に悪い所もないし。少しづつ準備はしているんだけど、それ以外に最近はこれといったネタもないので今日は以前から暖めていた音楽ネタを書いてみようと思う。

ロバート・クワイン。僕が好んで聴く音楽に思い出した様に参加しているロックギタリスト。聴くたびに、ああ、いいプレイだなぁって思うのだけど、何故か彼のギターを中心に串刺して聴いた事が今までなかった。で、少し前にロバートが参加している手持ちのアルバムを何枚かまとめて聴いてみた。

きっかけは、好きで良く読んでいる絲山秋子さんの小説。彼女の小説の一冊に、主人公がロバート・クワイン(女史はロバート・クインと表記)の幻のソロアルバムを探し求めるのが軸になっているものがあって。その小説を読みながら、そういや今までロバート・クワインのギターだけにフォーカスを当てて聴いた事無かったなぁ、と気付いて。何故だったんだろう。
ちなみにその小説は女史の小説には珍しく僕にはピンとこなかったのでここでは紹介しない。
でも改めて聴いてみると、ロバートは素晴らしいギタリストだったんだなぁって事を再認識出来た。まあたまにはこんな記事もいいでしょ。

ロバートは、若い頃はヴェルヴェット・アンダーグラウンドの大ファンだったらしい。ライブに何度も足を運び、カセットテープに録音したヴェルヴェッツのライブ音源は後に正式にリリースされているのだとか(僕は未聴)。
大学で法律を学び、弁護士の資格を取ったのちNYに移住したロバートは、リチャード・ヘル&ザ・ヴォイドイズに参加した事でメジャーなフィールドでの音楽活動を始めた。
実は僕、NY勢はあまり得意じゃなく、若い頃に殆ど聴いて来なかった。NYパンクの美味しいところ、ストゥージズもテレビジョンもニューヨーク・ドールズもマトモに聴いた事がない。リチャード・ヘルもこの文章を起こすに当たってほぼ初めて聴いたのだけど、びっくりしたのがロバートが生涯に渡って貫いたスタイルがこの時期にもう確立されていたという事。
エッジの効いたサウンドは勿論、使っているギター(フェンダー・ストラトキャスター)、パンクロックに似つかわしくないファッション、サングラス、そしてヘア・スタイル。自己規範に忠実な人だったんだろうな。
士業の資格を持っているというエピソードもそうだけど、ロバート・クワインは型通りのロックンロール・ギタリストでは断じてない。ギタープレイだってペンタトニックスケールをなぞるだけ、なんてつまらないプレイじゃ全然無いし。その佇まいは時に異物感に近いものを感じる程だ。

ロックファン的な視点から見た時、最も輝かしいロバートのキャリアはNYロックシーンの大御所、ルー・リードとのセッションだったかも知れない。
前述のとおりロバートはヴェルヴェッツの大ファンであったので、ルーと一緒にプレイ出来る事はロバート自身にも大変嬉しい事だったんじゃなかろうかと想像する。
この曲は、ルー・リードの名盤「The Blue Mask」に収録されているんだけど、このアルバム、ルーのヴォーカルが今までと、そしてそれ以降と全然違うんだよね。鼻にかかった声で囁くように歌うのがルーのスタイルだと僕は思っているんだけど、この曲なんかは思いっきりシャウトしてるよね。ここまで力んで歌うルー・リードは氏のキャリアを通しても異例なのではないか。

不安の波が夜襲う
嫌悪感の波–見たくもない光景
おれの心は破裂しそうだ
胸は締めつけられ 息が詰まりそう
不安の波 不安の波

Waves of Fear 作詞・作曲 ルー・リード 梅沢葉子訳

歌詞も重い。ストレートにネガティブな感情を歌っている。これも彼のキャリアの中では異質な事だ。
個性の塊みたいなルー・リードをここまで変節させたのは、作品を作る上でロバートと散らしたのであろう火花の賜物なのではないかと僕は思っているんだけど、だとしたら聴き手としてはロバートはバンドのメンバーとして、ギタリストとして素晴らしい仕事をした事になる。このライブ映像ではロバートのトレードマークである「痙攣ギター」もたっぷり堪能できる。必見の名演。
ルーとロバートはこの作品を含めて3枚のアルバム(一枚はライブ盤)を作りパートナーシップを解消する。その理由はルー・リード曰く「彼にはとてもクレイジーな所があったからね」。
一般常識からすれば変人ばかりが集うロック界の中でもとびきりの変わり者(しかもかつて大ファンだった人物)からクレイジーだと言われ、関係をそでにされたロバートはその後も自分のスタイルを一切変えることなく音楽活動を続ける。

ロバート・クワインのキャリアの中で僕的に一番馴染みが深いのがマシュー・スウィートとのセッション。一番音楽を熱心に聴いていた頃に何度も繰り返し聴き込んだ人だから。
この時期のマシューの作品はロバートの他に元テレビジョンのリチャード・ロイドもギタリストとして参加していてギター弾きとしても非常に聴き応えがあるんだけど、この曲が入っている「Girlfriend」と「100% Fun」はポップロックの佳作。発表後20年は経っているけれど未だによく聴く。日本人アーティストでも民生なんかはかなり影響を受けているんじゃないだろうか。確かCDの帯に推薦文を書いてた覚えがある。
こんなポップな曲でギターを弾いてもロバート・クワイン節は健在、というか、どこからどう聴いてもロバートそのものなんだよな。
ステージ上でも一人だけ異質、というか、ロバートの周りだけ異空間であるかのような空気が漂っている。あのファッション、あのヘアスタイル、そしてあの尖ったギターサウンド…。
僕はこの曲に関してはスタジオテイクの方が好きなんだけど、若い頃ギターで音を取ろうとしたけれど全然弾けなかった記憶がある。真似も出来なかった。
ロバートはきっと彼である事しか出来なかったんだと思う。そして誰も彼の様にはギターを弾けなかった。

僕と同年代の普通の?洋楽ファンに馴染み深いのはこの曲かも知れない。トム・ウェイツ、ダウンタウン・トレイン。
諸説はあるんだけど、この曲のソロを弾いているのがロバートなのだ。
諸説、というのも、この曲のレコーディングにはG.E.スミスとロバート・クワインの二人(一説によると三人)のギタリストが参加していて、どちらがソロを取っているか判然としないらしいのだ。
だけど、僕が尊敬するミュージシャンが「あのソロはロバートが弾いている」と断言している事もあって(氏はギタリストとしては超一流)、僕はロバートが弾いていると思って聴くと決めている。
そう、あのギターを弾いた人なんだ、ロバート・クワインは。
手触りは石ころの様にごつごつしているのだけど何処となく優しい。その手触りが、トム・ウェイツという、これまたロック界きっての個性といたずらにぶつかる事無く素晴らしい作品として昇華している。
僕は文字通り一晩中この曲をリピートして聴き続けた事がある。割と最近の話だ。
唯一無二である事がこんなにも人を勇気づける力になる事もあるんだな。

ロバートは故人である。死因は、ヘロインのオーバードーズ。何とも彼らしくない極めていにしえのロックスター的な死に方だけど、一説によると死の前年にこの世を去った最愛の妻の後を追っての自殺だとも言われている。
伝聞の話だから本当の事は分からない。でも、もしかしたらロバートにとって妻の存在はあんなに愛した音楽よりも大切なものだったのだろうか。そうなのだとしたらそれは美しくも哀しい物語だ。
人の死を美化するつもりは毛頭ないのだけれどね。

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