今ひとつ盛り上がらないテンションと地味に冴えない体調を言い訳にダラダラ日々を過ごしていたらあっという間に12月になってしまった。
職場から見える山々は白い雪化粧だし、平地でももう既に数回雪が積もった。帰宅が深夜になる仕事をしている僕はもうベスパでの通勤は危なくて出来ない。朝晴れてても帰る頃には路面は凍結、なんて事はザラにある土地柄だから。

 

仕事の繁忙期である12月の日々は本当に一瞬で過ぎ去ってしまうのは経験上知っていて、うげぇもう今年も終わりが見えてきたな、などと考えると本当に日々の過ぎ去るスピードは早い。うだつの上がらない毎日を漫然と過ごしている余裕なんてないのだろう。本当は。

とは言え体調はすぐれない。睡眠が不安定なんだよね、困った事に。仕事柄生活のリズムは不規則な事この上なく、ただでさえ身体に無理をさせているなという自覚はあるんだけど、ここにきて本当に寝付きが悪くて。
酒の飲み方を考えてみたり眠剤を服用してみたり、色々工夫はしているもののこれと言った打開策は見出せず。

睡眠がうまく取れないと身体の疲れも取れず、そうすると気持ちも弱ってくる。人生を滅茶苦茶に不摂生してきたツケが回って来たのかよ、そのうち来るだろうとは思ってたけど随分と早いじゃねぇか、などとネガティブな思考にとらわれながら怠け者の猫の様にごろごろと床を這い回るような晩秋だった。

 

そこにダメを押したのが、自称小説家の後輩から勧められて読んだ一編のマンガ。おやすみプンプン、というマンガなのだけど、これが強烈な物語で。
いや、ストーリー自体は後半に起こる事件以外は特に変わった話でもなく、自我の目覚めから家族、母性、友情やら、恋だとか愛だとかセックスだとか、人生のそこここに潜んでいる危うさなんかも含めて、少なからずの人が大人になる過程で経験したであろう心情を綴ったひとりの少年の成長譚なのだが、物語の組み立て方や心理描写などが、流石「読んでいる」奴の推薦だけあって、もう文芸作品と呼んでもいいくらい素晴らしく良く出来ていて。初めて読了した夜には僕は本当にぶっ倒れるんじゃないかという程衝撃を受けた。

弱った心で読みおえた後は他の本を一冊も読めなかったし何ひとつ書く気になれなかったし、衝撃のあまりインポテンツにもなった。
マンガって凄いね、僕は今まであまり読んでこなかったけど(僕は少年ジャンプをお金を払って買った事がない)。向こうからグイグイと自分の中に入り込んで来る。

 

というわけで、先月の後半からは毎晩プンプンを読みながら酒を飲むという生活を続けていた。全13巻、多分10回以上は通して読み返したと思う。

 

月が変わった頃ようやく、このまま、辛いけれども何処か居心地のいい文芸の世界に浸っていたらいけない、と思い、すがるように一枚のCDを棚から取り出して聴いた。
HEATWAVE、新しい風。

 

 

 

新しい風が明日の方から吹いてくる
新しい風が憧れくわえて吹いてくる

夕方に目覚めたんだ
昨日もまた飲み過ぎたんだ
鏡の中に映るのは
まるで自分の抜け殻だった

人間でいると疲れるだけさ
生きていると汚れるだけさ
煙草を吸って 酒を飲んで
またやらかしたんだ
そんな日々

「新しい風」   作詞 山口洋  作曲 山口洋、モーガン・フィッシャー、山川浩正

 

多分今まではっきりと名前を出した事はなかったけれど、好きなミュージシャン、尊敬するミュージシャン等々の書き方でこのblogには過去にこっそり何度か登場している。
このバンドを聴き出してもう20年近くになる。ヴォーカルの山口洋さんという方なんだけど、僕は氏が直球以外の球を投げるのを見た事がない。この曲の様に何処かやけっぱちなテイストで歌われる曲でさえど真ん中に飛び込んでくる直球だ。

 

実はこの曲のこのテイク、画像のシングルCDでしか聴けない。中古盤市場にも滅多に出てこないし、たまに出てもとんでもない値段がつく。中古盤の値段はシンプルに需要と供給のバランスで決まる。なんとなれば需要に対して供給が圧倒的に足りないのだろう。盤自体の絶対数が少ない上に持っている人ももう手放さないからなのではないだろうか。収まるところに収まってしまっているというか。
YouTubeでは割と最近のライブテイクの動画も観れるんだけど、うつみようこさんのラップ&コーラス、HONZIさんのバイオリン、モーガン・フィッシャーのピアノが入っているこのテイクの「突き抜け具合」は唯一無二だ。
あの日あの頃の氏にしか演奏出来なかったであろう名演。僕もこのCDは死ぬまで手放さない。

 

 

せっかくだからこのバンドについてもう少し語る。

最近思うのは、何かが変わる時、その変化は何らかの劇的な出来事によって為される事もあるのだろうが、さもない日常の中でおだやかに変わっていくものの方が多いんじゃなかろうか、という事だ。
そりゃオセロの駒がひっくり返る様にある日ある時をきっかけに黒い色が白くなる事もあるだろう。でもそれよりは、風雨にさらされ陽の光を浴びて、褪せる様に変わっていく物事の方が多いしそういう変化の方が変わり方としては強いんじゃないか、と僕は考える様になった。
僕にとって洋さんが描く曲とはそういうものだ。雨や風、真夏の刺す様な陽射しや冬の冷たい北風、昼間の明るさ、真夜中の闇。
そのインプットはもしかしたらあまりキャッチーではないのかも知れない。でもそれはゆっくりと、しかし確実に聴く人を変えていく。うん、僕にとってHEATWAVEとはそういうバンドだなぁ。

 

 

おやすみプンプンの作中、漫画家を目指す登場人物が酔っ払って吐くセリフがある。

 

「あたいが描きたいものってのはさあ…

感動とか泣きとかその場の甘やかしなんかじゃなくて、そいつの人生そのものに影響したいの。

現実を忘れさせるための漫画じゃなくて!

現実と闘うための漫画なの!」

おやすみプンプン 浅野いにお著 第8巻より抜粋

 

僕はそういう表現に触れるのが好きだ。というか、それ抜きの人生は考えられない。
闘っているかどうかや好き嫌いは別としても、生きるか死ぬかだからなぁ。そう、死活問題。

 

という訳で、この曲の抜け具合のおかげでこんな駄文を書ける程度にまでは回復したかな。実はインポテンツはまだ治ってないんだけど、今更そんなに使うものでもないのでさほど困っていないから放置する事にした。まあそのうち治るだろ。

 

明日の方から吹いてくる新しい風はそろそろ身を切る冷たさだけど、今年も何とか無事に生き抜きたいものです。