Twenty-Seven

ものすごく久しぶりにバイク雑誌なんてものを買った。
お世話になっているバイク屋さんがお店のblog記事を書いてて。Street Bikers’さん、20周年なんだって。
今日び紙媒体を20年も続けるって凄いよね、僕が昔愛読していた別冊モーターサイクリスト(とてもいい雑誌だった)も2年前に休刊したみたいだし、これだけバイクが売れない売れないと騒がれている時勢に。

雑誌の内容は、流石に僕が毎月定期で購読するような内容ではないんだけど(趣味の問題)、それでも周年の企画で編集の方が各々書かれていたコラム的な文章はとても面白かった。
何年も続けていればそりゃ自分にとってバイクとは何ぞや?なんて事を考える時間はたくさんあるのだろうし、しかもそれを20年も、だから。言葉にも重みがありました。

ちなみに画像は特別付録のルイスレザー製のキーホルダー。とても雑誌の付録とは思えないクオリティの造り。

 

そう、20年なのである。20年前、僕は何をしていたかというと、27歳だった。
…え?27歳??27歳!そう、27歳だったのだ。だったんだなーって、店主が書いたblogを読みながらしみじみと思い出した。本当にしみじみと。

 

27歳がある種の人間にとっては特別な年齢であるという事を、昔とあるSNSで書いた事がある。当時あれこれ考える時間だけは沢山あったから、SNSというある種閉じられた空間に由なし事を色々書いたうちのひとつ。
tDiaryでblogを運営していた頃に転載した事はあったんだけど、それ今読めないからね、いい機会なのでここにまた転載する事にする。

 

 

— 

 

 

…もう10年以上前の事になるのかなあ。思い出したくもないから敢えて数えないけど、ある4月の朝、普段新聞なんて読まないオレは珍しく朝食を食いながら新聞を眺めてた。

社会面の下の方、ホントにちいさな記事だったけど、御丁寧に写真入りで、読売新聞は報じてた。

「ロックのコバーンさん、自殺」

ったく、いつもそうだ、普段新聞なんて読まない癖に、たまに読むとこういう憂鬱な記事にブチ当たる。じゃがたらのアケミの訃報も、戸川純の自殺未遂も全部新聞で読んだ。
ニュースなんてクソ面白くない、見たくもない…

 

当時、ロック界は、オルタネイティブ・ロックとかグランジとかと称される、ラウドでソリッドなロックがシーンを席巻していた。その頂点にいたのが、左利きのギタリスト、カート・コバーン率いるNIRVANA。
そのバンドのリーダーの突然の訃報に、ロック界はテンプラ鍋をひっくり返した様な大騒ぎになった。

カートの死についての個人的感想はここでは書かないけど、当時まだ多感なるロック青年だったオレは、暫くして出回った、雑誌の特集をくまなく読んだのだった。当時、インターネットなんて無かったからね、雑誌って大きなメディアだったのよ。

…某R誌の、オレの大好きなライターが、キレた文章を書いてた。略して曰く「ジミ・ヘンドリクスも、ジャニス・ジョプリンも、ジム・モリスンも27歳で死んだ、そして先日、カートも27でこの世を去った。27歳というのは、『人が死ぬ季節』なのかも知れない」。

 

ふうん、そうなんだ。まあ、願掛けの類とか、風水とか、全然信用しないオレだけど、大好きなミュージシャンの突然の死に直面したショックもあったのか、「27歳」という年齢が、自然に心に刻まれた。

 

…その年の年末、大学を留年する事が決まってたオレは、友達が立ち上げた、運転代行の仕事を手伝っていた。クルマも3台しかない小さな会社だったけど、年末だったし、仕事は忙しかった。
ある日、オレは、酷く酔っぱらったオッサンのクルマを運んだ。オッサンは、オレに行き先だけを告げると、すやすやと寝息を立て始めた。

 

…沈黙の中、山形の雪道を、静かにクルマを走らせる。

 

と、眠っていた筈のオッサンが突然口を開いた。

オッサン「おう、兄ちゃん、お前、歳幾つだ?」
オレ「え、オレっすか?22っす」
オッサン「そうか… 男はなあ、27までに自分の一生を決めなければならねえんだ」
オレ「(…ハァ?)」

ふとオッサンの方を見ると、シートを深く倒して、眼は閉じたままだ。
寝ぼけているのか?いや、口調はやけにはっきりしている。

ちょっとビビるオレを尻目に、尚もオッサンは続ける。曰く、
「人間には誰しも無限の可能性がある、そしてその可能性を試す価値は十分にある、でもな、深追いし過ぎると、一生を棒に振る事もある、そのタイムリミットは27歳だ、だから男は27までに一生を決めなければならない」。
ひとしきり話し終えると、オッサンはまた寝息を立て始めた。

 

…また27かよ…身体に震えが来たのは、山形の夜が酷く冷えたからだけじゃなかった。

 

翌年、学校を半ば追い出されるようにようやく卒業したオレは、ロクに就職活動もしないで、クルマの整備工場に勤める。
クルマが死ぬ程好きだったし、何よりも、ネクタイを絞めて働くのが死ぬ程嫌だった。カウンターカルチャーにどっぷり浸かった青春を過ごしたオレには、「皆と同じスーツを着てネクタイを絞める」という行為は、死刑宣告に等しかった。心酔してたポール・ウェラーが言うように「ミスター・ノーマル」にはなりたくなかった、どうしても。

親には勘当され、安月給で朝から晩までのハードな肉体労働。仕事の合間を見て、バンド活動。生活費以外のわずかな金は全部CD代とギターのローンに消えた。エアコンどころか、網戸も無いようなボロアパートに住んで。
それでも楽しかった。好きなものに囲まれて、好きな事をやる生活。充実してたなあ。

…でもね、そんな密月はいつまでも続かなかった。ちょっとしたいざこざに巻き込まれ、バンドは解散、勤めてた会社は左前、おまけにでっかい失恋も同時に経験しちゃったオレは、「大人」になる決意をする。潮時だよ、その時はそんな風に思ったのを覚えてる。

髪を切り、実家に頭を下げて帰り、一年間、猛勉強。見事、世間体のいい「マトモな」仕事に就く。
妹とスーツを買いに行って、フィッティングして貰ってる自分の姿を鏡で見た時「そういやオレ、今年で27歳だったわ」って思い出した。

 

…「大人」の生活、ってのも、悪く無かった。給料は安定してるし、楽だったね、色んな意味で。まあ、大人の世界の汚ねえ部分もたっぷり見せつけられたりしたけど、いい社会勉強だったね、今になって思えば。当時は随分嫌な思いもしたけどね。

でもさ、上手く大人になれなかったんだね、オレは。死に切れなかった。簡単に言えば、刺激の無いルーティンな毎日に嫌気が差し、丁度家庭面のタイミングもいい方に合ったのかな、8年勤めた職場、辞めちゃった。

 

…性なのか、御里なのか。27で死に切れなかったオレは、今日もコンビニの灰皿の前で独りタバコをふかす訳です。
こうやって振り返ってみると、色んな思いが交錯するけど、まあロック的なハイスピード・ライフはオレには似合わんしね、山形のオッサンには機会があったら謝りたいけど。忠告生かせずごめんね、って。

 

それでもさ、27で死んで行ったミュージシャン達よりも、40歳過ぎても曲書き続けてる人の方が好きだから、オレは。

 

「いい曲」、書きたいな、って、思うよ、オレも。これから何があるか分からないけどね、いい生き方したいよ。
なんて、微妙に前向きな今日この頃です。

長文失礼。

 

 

— 

 

 

以上転載終わり。句読点の位置その他ほんの少しだけ修正しました。
これ僕が37歳の時に書いた文章なんだけど、今も心持ちは変わってないな、と思う。そしてこういう過程を経て僕の今がある。事実としてね。
定点観測的に自分でも定期的に読み直したい文章です。

 

 

カートは、自分と自分の周りとの距離感を上手く掴めなかったのかな、と思う。繊細な人だったんだろうな。
思う事は色々あるんだけど、死後20年以上たった今でも気の利いた事書けなさそう。
今日の仕事が終わったら久しぶりに聴きながら酒飲もう。

 

 

 

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4 comments on “Twenty-Seven

  1. ヨコチン Post author

    非公開希望さま、こんばんわ。ご無沙汰です。

    え〜!!つーか元気なの?!まあ無事に生きているようで安心しました。
    お褒め頂きありがとうございます。でも別にカッコよくないよ、ここにはカッコ悪いこと書かないだけ。いい歳こいてロクでもないおっさんですよ。
    でも、このクオリティの文章量産出来たらオレもblogで食えたね。笑
    量産はとても無理だけど。それこそ御里です。

    つか、メールしても大丈夫??良かったら返信下さい。

  2. ヨコチン Post author

    非公開希望さま、了解しました。では後程^^

  3. Turn-X

    今月のストバイ誌買われたんですね。
    自分もキーホルダー欲しさで買ってしまいました(笑)。
    この雑誌も今の時代、よく20年間生き残りましたよね。
    自分も普段は買わないですけど、文章の雰囲気や記事の内容は
    ほかのバイク雑誌とはちょっと違っていて、
    それなりに見所はあると思っています。
    あと、27歳についてのブログの記事、懐かしかったです。
    自分にとっての人生の岐路は、もう少し前だったような気がしますが、
    まあだいたいこれくらいで大きな流れが決まるという事なのでしょうね。
    過去を振り返ると恥ずかしいことばかりなので、
    あまり振り返らないようにしているのですが(笑)、
    自分もちょっといろいろと考えさせられました。

    • ヨコチン Post author

      ストバイ、多分買うのは人生で2回目だと思うんだけど、まあたまにはいいもんです。結構グッズの通販に力入れてたり、生き残る努力は垣間見れたけどそれでもやっぱり20年は凄いね。

      このエントリね、自分にとっての定点なんだわ。たまに読み返して自分が何処にいるのか確認するために今回転載したところです。
      過去なんて大概恥ずかしい、というか、振り返ると至らない自分のオンパレードだからね、きっと今の自分も一年後には「あの頃至らなかったなあ」って思うんだと思う。
      逆に言うとその分成長したって事なんだろうからね、ネガティブに捉えるよりは調子こいて気楽に考えた方がいいのかもよ。

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